柳美里「ねこのおうち」に描かれたペットと暮らせる老人ホーム

shinyabin_160831-03たまたま、うつらうつらしながらラジオ深夜便「ふくしまにまなぶ ふくしまでまなぶ」を聞いていたら、柳美里が2年前から南相馬に転居して暮らしているという。将来の夢は、南相馬の駅前に誰でも気軽に立ち寄れる交流の場となる図書館を創りたい。そこに自分の著書「ねこのおうち」なども置いて、自由に読んでもらいたいというような話を語っていた。柳美里が震災後から南相馬に通っていたことも、猫に関心があることも全く知らなかったものだから、あまりにも意外でさっそく「ねこのおうち」を買い求めた。

柳美里という芥川賞の作家の作品は読んでいて息苦しかった印象が強く、強いて読みたいと思わなかった。今回も覚悟をして読み始めたのだが、「ニーコのおうち」「スワンのおうち」という章立てをみてもわかるように物語として描かれていて読みやすい。舞台は、光町の「ひかり公園」。ここに集う猫と人の生と死の物語が描かれている。
nekono隣町のマンションで、キャットショーに出すほど綺麗なチンチラがマンションから脱出して外猫の仔を3匹生む。妻は雌親に似ていない短毛キジ虎の仔を毛嫌いし、ひかり公園に捨てるように夫に命じる。夫は、そんな妻との離婚を決意しながらも、仔猫をひかり公園に捨てる。ここから、短毛キジ虎ニーコを助ける一人暮らしの渡辺さん、ひかり公園でTNRをする猫好きの田中さん、公園での餌やりに反対し捕獲器に毒の餌を仕掛ける加藤さん、捨てられた3匹の仔猫に対する小学生の残酷な仕打ち、そのなかから1匹を救い出して持ち帰ると姉で不登校だった中学生が猫の世話を始める話、捨て猫の里親募集もするカモメ動物病院の港先生、港先生から猫を譲渡してもらうシングルマザーと二人暮らしの原田クン、猫を飼いはじめて両親が離婚したトラウマから逃れる端緒をつかむフリーライターのひかる、保健所の「子ねこふれあい広場」で2匹の猫を引き取る若い夫婦、その妻の死、そして最後に猫や犬と共に暮らせる老人ホームに入所していた認知症の渡辺さんが「自分の人生から時間が漏れ出していく」老後をニーコの子ども猫と出会って自分を取り戻す。猫と人がお互いが求めあうようにして関わり、輪廻し、転生する。

物語の最後に登場する特別養護老人ホーム「フレンドハウス」は、「殺処分を減らす取り組みをとして、ねこといぬの保護活動をしています。元々は、ペットと共にセカンドライフを送ることが触れ込みだったんですが、飼い主がペットよりも先にお亡くなりになられるケースも多いんです。遺されたペットを他のお年寄りがかわいがり、生きて行く支えにしている姿を見て、施設長から、老人ホームと老犬ホーム、老猫ホームを両立できるじゃないかという提案がありました。われわれスタッフも全員一致で賛成」し、大改装がなされて、「いぬ好きの老人が暮らすユニット、ねこ好きの老人が暮らすユニット、動物嫌いやアレルギーがある老人が暮らすユニットに住み分けられていて、各ユニットに一つずつ、食事や体操などができるホール」を設置。「ドッグトレーナーやトリマーなどの動物担当スタッフも常駐していることで、人間担当はピンク色、動物担当はブルーの制服を身に付けていました」。
この「フレンドハウス」の描写は、日本で唯一、ペットと一緒に入居できる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」を彷彿とさせると同時に、それをさらに進化させている。“小説に描かれた夢物語”にしないで、超高齢化社会に不可欠な施設として何としてでも挑戦してほしい。それこそ「みんなのおうち」が実現する。

(吉本 由美子)