NPO法人ペットライフネット設立記念セミナー
高齢者がペットと共に暮らせる社会をめざして

さんかく2講演【1】「ペッとともに元気に生き抜くために」
  石井万寿美氏(獣医/「まねき猫ホスピタル」院長)

さんかく2講演【2】「私がいなくなったら、この子はどうなるの?」
  檜山洋子氏(弁護士・ニューヨーク州弁護士)

さんかく2講演【3】「ペットのために資産を遺す~ペットライフ信託~」
  澁谷誠太郎氏(サーバントラスト信託会社)

講演【1】 「ペットと共に元気で生き抜くために」

      石井 万寿美氏 (獣医師/「まねき猫ホスピタル」院長)

石井先生
1.シニアだってペットのいない生活なんて考えられない

獣医師なのでペットの高齢化については日頃から感じていました。しかし、飼い主さまが高齢化になっていることについてはペットライフネットから声がかかるまではほとんど考えていませんでした。

私は、11歳になるダックスフントを飼っています。ずっとペットと暮らしてきていますから、今の子が亡くなったらまた新しく飼うと思いした。そしたら、スタッフから「先生が亡くなったら、どうするの」といわれたのです。娘に託すつもりでいるのですが、果たして引き取ってくれるかどうか考えて込んでしまのが現実です。

日本人の寿命も延びていますが、ペットの寿命も延びています。わが病院に来ている犬でいちばん長生きしているのは、シーズー犬で19歳。目がちょっと悪いですが注射をしようとすると噛みついてくるぐらい元気です。猫ちゃんは20歳くらいの子はパラパラいます。いちばん長生きなのは25歳。四半世紀生きるわけです。可愛いからといって衝動的に飼ってしまうと、これが大変です。

シニアになったからといってペットのいない生活なんて私は考えられません。しかし、自分が亡くなった場合のことも考えた、ペットの選び方、飼い方について真剣に考えてみたいと思います。

2.シニアがペットを飼うことの利点

シニアがペットを飼い続けられる方法を考える前に、シニアにといってペットを飼うことには、どのようなメリットがあるのかをみてみましょう。

ペットを飼うと当然、世話をしなくてはなりません。自分だけでなく誰かを世話しなくてはならない。これが、飼い主さんにとっての健康管理にも役立ちます。たとえばワンちゃんの場合、毎日、散歩をしようと思えば、自分自身の足腰も鍛えておかなくてはと思うわけです。こうして体を動かす、あるいはブラッシングをするなどしてペットと触れ合うことが、認知症を予防することにもつながるという研究結果も報告されています。

社会的な面からみますと、おじいちゃんがひとりで散歩していても誰も声をかけません。しかし、可愛いプードルと一緒だったら、小中学生の子どもたちが寄ってきます。これって、ほほえましい風景ですよね。また、ペットショップに出かけてフードや服や砂を買うとき、若い店員さんと話をします。あるいは、動物病院に来られて、他のお客さんと「うちの子が~」と話し込んでおられるのをみると、社会的なコミュニュケーションというか、つながりができているのをみることができます。

最後に、動物の力を見逃すわけにいきません。よくある話ですが、長年連れ添った夫婦間や難しい年頃の子どもがいる家庭など、ペットのことになると話が盛り上がります。会話が成立します。また、家に帰ると尾っぽを振ってすり寄ってくるワンちゃん、ノドをゴロゴロ鳴らす猫に触れると心がなごみますよね。孤独感が癒され、気持ちが落ち着きます。

3.シニアが飼うペットの理想モデル

去年の9月、「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され、飼い主さんに「終生飼養」が義務付けられました。そこで、シニアがペットを飼う場合の理想モデルを考えてみることにしましょう。
人の場合、男性の平均寿命は、79.94歳。女性は86.41歳です。ペットは犬猫ともに15歳くらいでしょう。 

このことから、新たにペットを飼い始める年齢を、男性65歳、女性70歳として考えてみると、飼い主さんと同じようにペットも年を重ね、一緒に暮らせるのではないでしょうか。

では、シニアにとって理想的なワンちゃんはどのようなタイプでしょう。
飼い主さんの体力を考えると、なるべく10キロまでの小型犬がいいです。また、あまり病気をしない、世話がしやすいワンちゃんがいいですね。見分け方は、意外と簡単、街でよくみかけるかどうかです。

仕事柄、当然なのですが、世界各区のワンちゃんを診ています。ワンちゃんには流行がありますが、街で見かけないワンちゃんは飼いにくい、病気しやすいと思ってもらってほぼ間違いありません。街でよくみるワンちゃんはあまり病気をしない性質です。

例えば、チャウチャウというワンちゃんをご存知ですか。中国のワンちゃんですが、最近見かけませんよね。噛むことが多くてしつけがしにくいのです。そのため、25年前には流行りましたが、今はあまり飼われていません。
スピッツも今は見ないですよね。スピッツはよく鳴くのです。お隣に迷惑がかかるので、飼うのが敬遠されてしまいました。
「動物のお医者さん」のハスキーって、ご存知でしょう。寒いところのワンちゃんですから、夏になると熱中症になってしまうのです。
フレンチブルドッグはフランスのワンちゃんです。10年ぐらい前に流行ったのですが、日本の気温や湿度にあわなくてアトピーになってしまうのですよね。また、短頭種ですから夏に弱くて熱中症にかかりやすいのです。そのため、少なくなっています。

いま流行りの三大犬種、チワワ、ミニチアダックス、トイプードルについてみていきましよう。
チワワはメキシコのワンちゃんで寒がりです。うちの病院に3枚服をきてくるチワワがいます。上着を着て、セーターを着て、Tシャツを着てくるのです。飼い主さんが「裸にしてください」といわれるのですが、「ワンちゃんの裸ってなに?」と笑ってしまうこともあります。小型犬なので飼いやすいですね。ただ、体重が2キロもないワンちゃんは可愛いですが、低血糖を起こします。チワワなら大きいのを飼われた方がいいですね。病気が少なくてすみます。

私が飼っているミニチュアダックスは背骨が長いので背骨の病気がありますが、まぁ、飼いやすいですよ。
トイプードルはフランスのワンちゃん。きれいですね。結構グルメなので美味しいものをあげてしまうと贅沢になってしまいます。その点を注意していただくと、元気で飼いやすいです。

ちなみに日本人はあまり違う犬種のものは飼っていません。一般社団法人ジャパンケンネルクラブによる犬種別犬籍登録頭数によりますと、プードルとチワワとダックスフンドの3種類で登録されている犬の過半数を占めています。

次に、猫の話ですが、日本で飼われていた性格の激しい猫は、シャムネコです。最近はみかけなくなりました。
また、アビシニアンやロシアンブルーも交配の過程で大人しく改良されてきています。
スコティッシュフォールドは耳が折れている猫ちゃんです。1960年代に耳が折れるように交配されてできた猫です。そのため、関節が弱いです。高いところ登らないのでいいといわれますが、関節炎のため登らないこともあるので、注意が必要です。
血統書つきの猫で病気をしにくいのはアメリカンショートヘアです。
猫はあまり改良されていない分、その猫独特の病気は少ないですね。

4.里親に出すことを考えて世話をする

ところで、シニアになってから動物を飼い始めると、自分の方が早く亡くなってしまうのではないかといった寿命の問題、体力の衰え、記憶力の衰え、例えば「今日、ご飯をあげたかな」「病院へ連れて行ったかな」といったことがわからなり、不安に襲われます。これは特定の人に起こるわけではなく、今から対策をたてておけば楽しいシニアライフが送れるのと思います。

理想のモデル像のところで話しましたが、ご自分の寿命を考えて、ペットと一緒に年を重ねていけるペットを飼ってみてください。子猫、子犬を飼うのではなく、5~6歳の子を動物愛護団体などからもらい受けるのもいいのではないでしょうか。

そして、自分にもしものことが起こった場合のことを考えておいてください。ペットのしつけをちゃんとしておかないと次に託す人が困ってしまいます。経済的にも負担をかけてしまいます。
なかでも、避妊・去勢です。避妊をしていない女の子は、年を取ると乳腺腫瘍や乳がん、子宮蓄膿症になります。去勢していない男の子は前立腺肥大や精巣の腫瘍、会陰ヘルニア、肛門の周りの腫瘍などに罹ります。若いとき避妊・去勢をするだけで防げる病気です。
また、5キロ以下のワンちゃんは人間が改良してつくったものですから、僧房弁閉鎖不全症という心臓の病気にかかることがよくあります。この病気をすると、見ているのが辛い亡くなり方をします。

次に心がけてほしいのが「ペットの母子手帳」です。サラブレッドは移動証明書を持っていますが、ペットも同じように母子手帳を作ってもらうと、病歴、避妊・去勢手術の日付け、ワクチン接種、フィラリア症の予防薬などが記載されていますから、次の飼い主さんがすごく助かります。

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■ペットの母子手帳

犬、猫の死因は、癌。これは先ほどもいいましたように避妊・去勢手術で防げる癌もあります。次に心臓疾患。小型犬は心臓病になりやすいですから、早期の予防が大切です。猫の場合は慢性腎疾患にかかる子が多くいます。いずれもシニア期に入ったら、定期的な健診(レントゲン検査、超音波検査、血液検査)をして、病気を早く見つけていやってください。

5.闇に消えたペットの原因は、シニア?

昨年の秋、第34回動物臨床医学会年次大会で「犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策」という報告書が発表されました。
これによると、犬の積極的な所有放棄者を年代別にみると、60代以上が56.3%で、飛びぬけて多いです。所有放棄理由の最も多かったものは、飼い主の死病・病気・入院で26.3%。3年前に比べ増加傾向にあるとのことです。その次に、鳴くとか噛むとかの問題行動。次に引っ越しです。

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出典:第34回動物臨床医学会(2013)
「犬の飼育問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策」

なかでも、飼い主さんの認知症などで放棄されることも多いと聞いています。
去年の暮れのことですが、ダックスフンドが病院に来たのです。乳腺腫瘍でサッカーボールまでもいきませんがソフトボール大のが二つ。飼い主さんが亡くなられて親戚の方がこの子を連れてこられました。誰がみてもおかしいと思える病気なので、どうして気付かなかったのかとお聞きしますと、飼い主さんが認知症だったのです。認知症になるとペットの病気の発見も遅れます。
ここまで極端でなくとも、シニアの方の五感の衰えということから病気がわからない場合もあります。実例なのですが、飼い主さんが猫ちゃんの爪が伸びているといって連れてこられたのです。ところが、すごいニオイがしていたのです。猫ちゃんの口をあけると臭いのですよね。歯周病だったのです。

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シニアにとってペットを飼うことは認知症の進行をカバーし、社会との絆を生み出し、孤独感から救うという大きなメリットがあります。しかし一方で、飼い主さんが病気になったり、五感が衰えると、飼われているペットの健康を損なうことになります。
これは、私たち獣医師にとっても大きな課題です。シニアの飼い主さんに対しては、ペットの診断プログラムや来院計画をメモにしてお渡しするなど、飼い主さんと密な関係を築きながらペットと一緒の幸せなシニアライフにお役に立ちたいと願っています。


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■石井万寿美先生の近著
「老犬との幸せな暮らし方 認知症・病気・
介護・日常生活から最新治療法まで」
(水曜社出版)
シニアのペットと共に生き抜くための
ノウハウがつまっています。



>>講演【2】 「私がいなくなったら、この子はどうなるの?」へ

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