エイベットで野良ネコの不妊去勢手術を見学しました。

 一度見たら忘れられないクロネコのパンフレットをご存知ではないですか?
「大阪ねこの会」の定期集会はもちろん、各所で開催されるタウンミーティングには必ず置かれていますよね。これは、大阪府松原市に動物病院と獣医師がタッグを組んで設立した保護動物の支援活動団体、一般社団法人エイベット(avet)が制作したパンフレットです。

エイベットの活動は、
「ずっとのおうち」:保護された動物、事情で引き続き飼えなくなった動物と動物を飼いたいと願っている里親さんとのマッチングのお手伝い。
エイベットにシェルターはありません。里親探しをしている動物の写真を「ずっとのおうち」というサイトにアップします。保護ネコの愛くるしい写真撮りの手伝いもしてくださいます。なお、譲渡条件は保護主さんの意向によって異なります。

②「TNR活動」:おしっこやうるさい鳴き声で迷惑がられる野良ネコを減らすために、また与えられた命を“殺処分”されてしまう不幸なネコを救うために、野良ネコの不妊・去勢手術を支援価格で行い、地域猫として一代かぎりのいのちをまっとうしてもらう活動です。

ネコのボランティアさんたちは、地域の中で猫が住民たちに嫌がられず生きれるように、野良ネコを捕獲して(Trap)、不妊去勢手術を施し(Neuter)、ネコを元の縄張りに戻し(Returen)、一匹一匹の健康状態をチェックし、餌をやり、糞尿を清掃し、そのいのちを見守っています。
この地域猫活動のなかでボランティアさんにとっていちばん頭の痛い問題が、不妊去勢手術です。
ネコは、交尾刺激によって排卵する「交尾排卵」ため、精子と出会う確率は高く、交尾をすれば約90%が妊娠するといわれています。そのため、1匹のノラネコが1回に5匹の仔ネコを生むと、その半年後に仔ネコが成長し、5匹を生みます。そして、その仔が…と、計算していくと1年で実に65匹!3年後には5,465匹!!!という大変な数になってしまいます。人間の手でいくら殺処分をしても追いつかないのが、ネコの繁殖力です。
そのため、ボランティアさんは産まれても生きることができない不幸な野良ネコを減らすために、不妊去勢手術を行っています。しかし、不妊去勢手術にはおカネがかかります。一般には、雌の場合は2~4万円以上、雄の場合は1~2万円以上(All Aboutの記事より)といわれています。

野良ネコの手術費には行政から支援がでるケースが増えてきましたが、今でもほとんどのボランティアさんが自費で野良ネコの不妊去勢の手術をされています。その出費たるや凄まじいものがあります。不幸なネコを救いたいと思っても、この手術代金がネックになり、自分の気持ちを封印してしまう方も少なくありません。
エイベットは、野良ネコの不妊・去勢手術をボランティアさんへの支援価格で行っています。これが可能になったのは、不妊去勢手術方法を大幅に見直されたからです。

エイベットの理事長 橋本和也さんが、今年の元旦のエイベットのブログでこのように綴っておられます。

(前略)エリコ獣医も私も、一般的な全身麻酔方法でしか、手術を行ったことがなかったので、このころは野良ネコさんたちにとっては、非効率、時間がかかり、身体への負担も軽くない方法でしていました。
そこはエリコ獣医、すぐに改善策を講じます。
海外のTNR活動現場のDVDを私に見せてくれました。

「え~、そんな簡単な手技でいいの~?」
「え~、そんな麻酔方法でいいの~?」
「えっ? 術後のネコ、めっちゃすぐに元気になってるやん!」

そして、大阪府内で長年にわたってTNR活動をなさってらっしゃる、
先達の獣医師のもとで、実習を重ねます。

それから、手術の全行程を、エリコ獣医と私で確認を重ね、できたのが
今エイベットが行っている方法です。

(中略)

★できる限り、安価で、それでいて安全で、覚醒がすぐで、短時間で済む、
といった条件を満たすべく。。。

(後略)

この手術方法は、獣医さんひとりで鎮静、麻酔、毛ぞり、手術、縫合、術野洗浄、抗生剤、鎮静剤、止血剤、ウイルステック後のワクチンの接種…これらすべてを獣医さんひとりで行います。
しかも、橋本理事長のブログを見て驚きました。
「ちなみに、エイベットでは、手術の現場を見学していただけます」

そこで、1月13日(土)にエイベットにお邪魔しました。
ブログですべてガラス張りでオープンと読んでいたのですが、実にその通り。すぐにエリコ獣医が手術をされている現場に通されました。
生後4カ月くらいの雌猫の不妊手術の真っ最中。手を休めることなく私たちの問いに答えてくださいました。この日の手術は9頭の予定。最近は月150頭くらいの手術をしている。不妊手術は15~20分かかるが、去勢術は1分もあれば十分とのこと。雌猫が終わると同じ白黒の弟らしき仔が手術台に乗せられ、ほんとうにあっという間に終わりました。必要な材料が手の届く範囲に設置され、手術を待つ仔には鎮静剤が施され、手際よく進んでいきます。

的確で素早い手術に驚きの声をあげると、エリコ獣医は「私は、まだまだ。もっとスピードを上げていかなくては、追いつかない。今も、熟練された獣医師の手術を見る機会があれば出かけて行って勉強している」とおっしゃていました。外で暮らす野良ネコのことを考えれば、できるだけ傷口を小さくし、早く手術を終えるようにして、できるだけカラダへの負担を少なくすることが必要です。しかも安価でとなると、アシスタントに頼らず獣医ひとりでの手術になります。こうした厳しい条件を満たさなくてはならない野良ネコの不妊去勢手術です。TNRに賛同して手術をしようとする獣医師がまだまだ少ないのが現状だと痛感しました。

私たちが帰る間際、エリコ先生に再度あいさつに伺うと、「あぁ~、まだ早いと思っていたのに…」と深いため息が聞こえました。不妊手術の野良ネコのおなかの中に赤ちゃんがいたのです。「これがいちばんツライわ」とエリコ獣医。ネコの発情期が始まると、こうした不幸な手術が後を絶ちません。

野良ネコ問題は、ネコの繁殖力や生態について正しい知識が広まるようになったきました。その結果、ボランティア活動を孤立させず、ともに地域の環境問題としてTNRに取り組む市民や団体がでてきています。このムーブメントを下支えし、前進させるのが、TNRを推進する獣医という頼もしい存在です。保護動物を支援するエイベットのに敬意を払うとともにこれからの活動にますます期待してます!

(吉本 由美子)