NPO法人ペットライフネットは、シニアのペット飼育を応援し、推進することを目指しています。しかし、高齢者がペットを飼うには様々な課題や不安があります。その最たるものが、 “いつまでも元気で、ペットの世話をちゃんとできるのだろうか?” という自身の健康と寿命の問題です。
最近よく耳にする言葉に「健康寿命」があります。「健康寿命」とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある「健康ではない期間」を意味します。平成22年の調査では、この差は男性9.13年、女性12.68年でした。男女とも、10年もの年月を身体や心に不調をもちながら過ごして死んでいくわけです。この間、自分一人の力では普通の暮らしが営めず、家族をはじめ周りの方々のお世話を受けざるをえません。
この現実をみると、だれしも自分の健康寿命を延ばしたいと願って当然です。なかでも深刻なのが、認知症です。認知症は誰にでも起こりうる脳の病気です。最も多いのがアルツハイマー型認知症で、脳の細胞がゆっくり壊れていき、脳が小さく縮んでいきます。次に多いのは、脳血管性認知症で、脳梗塞などで脳細胞に血液が行きわたらなくなり、神経細胞が壊れていきます。高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病が脳梗塞を引き起こし、脳にダメージを負わせるわけです。
厚生労働省の調査によると、65歳以上で認知症とされる人は、2012年時点で約462万人、認知症予備軍(軽度認知障害)も約400万人。65歳以上の実に4人に1人が認知症あるいは認知症予備軍と推計されています。
現代の医学では、残念ながら認知症を完治することはできません。そのため、認知症を予防することが最も有効だと考えられています。食生活、食事を見直し、飲酒やタバコをつつしみ、不規則な生活をあらためて、生活習慣を総チェックすることからはじめるのがいちばんだといわれています。
そんななか、「サンデー毎日」2014.10.26日号で、『認知症にペットが効く!?』(筆者:金澤匠)という非常にインパクトのある記事が掲載されました。
すでにお読みになられた方もおられるでしょうが、ここで簡単に要約してみることにしましょう。
①アニマルセラピーでお年寄りに大きな変化
認知症が8割を占める特別養護老人ホームラポール藤沢に「CAPP(人と動物のふれあい活動)」と呼ばれるアニマルセラピーに携わるボランティアスタッフが犬や猫、ウサギを連れて訪問すると、お年寄りに目覚ましい変化が現れる。
不自由な手で動物をなでようとする。ほとんど表情のなかった人が目じりを下げる。飼っていたペットの思い出を話し始める―そのような「変化」がみられる。
「認知症の人は、家族や医療・介護者から『世話をされる』立場です。けれども、それは自尊心を傷つけるかもしれない。体をさするなど動物に触れ合うことで、彼らは『役に立てる』と自信を取り戻し、さらに『私がいないといけない』と思うようになるのではないでしょうか」(施設長の片山さん)
②認知症に効く証拠はないが、「予防」に果たす役割は大きい
人間の健康状態に対して動物が及ぼす効果などを研究する麻布大学獣医学部太田光明教授は、認知症の人に対する動物がもたらす効果は科学的にまだよく分からない。しかし、「認知症を予防するという観点からは、動物の果たせる役割は大きく、期待できる」。
犬を飼うと「犬のために散歩をしよう」と考え、前向きな気持ちになるとともに、副交感神経(体を癒す働きをする)を活性化する。また、散歩に連れ出すことで運動量は増えるし、「犬友達」ができるなど他人との交流が深まることが期待できる。
③ストレスを軽減するオキシトシンの分泌が促される
今もって動物の「何が」「どのように」人間の心身に良い効果をもたらすかは、科学的なメカニズムははっきり分かっていない。ただ、太田教授によると、愛犬家を対象に行った研究で、犬と遊ぶことで飼い主の体内のオキシトシン(安らぎをもたらし、ストレスを軽減するホルモン)の分泌が促された。飼い犬との関係が良好であればあるほど、その分泌が活発になることがわかった。
ペットと一緒にくらすことが、高齢者の生活に彩りと活気を与え、ストレスを和らげてくれる。そのこと自体が脳を刺激し、認知症の予防に役立ち、健康寿命を引き延ばしてくれるというわけです。「コンパニオンアニマル」という言葉がありますが、高齢者にとってペットは単なる愛玩動物ではなく、「人生の伴侶」ともいうべき存在であるといえるでしょう。